2019年末に起きたウソみたいな本当の話を。
「退職するとき引き止められた」というのは、よくある話。
ありがちな引き止め方は「もう一度考え直してみないか?」というもの。
押しに弱い人は、これが結構なストレスになる。
よく「結婚より離婚の方が大変」と言われるが、転職も「入社より退職する方が大変」だと感じる。
しかし時代は少しずつ変わってきて、引き止め方も変わってきている。
2019年には退職を引き止めるため「2億円出す」という社長が現れた。
2億円って金額が引くでしょ?(笑)
あり得ないでしょ?
こんな話をすると「東京のIT企業か何かの話だろ?」と思われるかもしれない。
いいえ、違います。
地方に住む、普通のおっさんが、普通に退職しようとした時の話です。
なんせ私の友人の話ですから。
退職を相談してきた私の友人
3ヶ月ぶりに友人から電話が掛かってきた。
その第一声は「相談したいだけど、行っていいか?」だった。
友人の年齢は40歳。
電気系のエンジニアとして従業員100人程度の中小企業で働いている。
今は課長クラス。
その友人が「転職しようかと思っている」と言い出した。
私は「おお、おっさん頑張るね?良いじゃん、気合入れてけ」と笑った。
けど内容を聞くと深刻。
転職したいのではなく、退職しなければならないほど会社がヤバいらしい。
その引き金は人材流出。
人材流出が止まらない会社が増える2019年
日本は正社員の求人倍率はずっと低かったが、ここ数年はかなり上がっている。
これは少子高齢化の影響で「新卒の人数」より「定年退職する人数」の方が多いことが、大きな要因になっている。
会社は社員数を維持することが難しくなっている。
この高い求人倍率で現れた現象が人材流出。
今まではブラック企業だろうが、パワハラがあろうが「他に良い求人がないから辞められない」という事情があった。
特に地方では。
求人数が増えたことにより不満が吹き出して、バタバタと退職者が増えている。
急に退職者が増えると「え?あの人も辞めるの?この会社ヤバくね?」という心理になり歯止めか効かなくなる。
いわゆる不安が不安を呼ぶ退職の連鎖。
私の付き合いがある会社でも同じ現象が起きている。
そして私が勤めている会社も起きている(笑)。
友人の会社では、中心的な役割を担う3名が同時期に退職した。
その後を追うように若手社員が次々と退職している・・・。
退職者が増える現れる現象
退職者が増え負担が大きくなるのは友人である。
ちなみに友人の残業は毎月70~120時間程度。
40歳を過ぎて徹夜もする。
時には2日ぶっとうしで働く鉄人である(笑)
私も30歳前後は、そんな働き方をしていたが「さすがにもう勘弁してよ」と音を上げたひとり。
退職者が増えれば増えるほど、友人の残業も増えるのは必然。
そこに加えて会社の存続の問題。
会社の核となっていた人の変わりは、そう簡単に見つかるはずはない。
トラブルも増え、それを解決できる人も少なく、仕事が回らず・・・。
そして取引先から見た会社の信頼も危うい。
担当者から「実は退職することになりまして」と連絡を受けたと思ったら、また担当が変わる。
問い合わせしてもレスポンスが遅れ「あの会社は大丈夫か?」と思われる。
会社がジリジリと衰退して、数年後に倒産も十分にあり得る。
そんな中で40歳〜50歳という年齢は本当に難しい。
「最悪はバイトでもいっか」と思うには若い。
子供のことを考えると、もう少し稼がないといけない。
とは言っても転職は楽ではない。
けど足踏みすると更に転職が苦しくなる。
色んなジレンマがあり「転職するなら決断は早く」という状況。
友人に届くヘッドハンティングの話
友人の会社は一次下請けである。
友人の会社が人材流失していることを元請け企業は知っている。
「申し訳ない。今は人手不足がなくてその仕事は受けられません」とすでに伝えている。
元請け会社の社員も「そんなにヤバいの?」と気になる。
そんなときに元請け会社と打ち合わせで
「会社ってどんな感じ?」
「いや、どうにもこうにも。私も次を考えなくてはいけないかも(笑)」
と冗談まじりで話したときに、来た話がヘッドハンティング。
ヘッドハンティングというのは、名前はカッコ良いが、いわゆるコネ入社の一種。
仕事の付き合いがある人から「退職を考えているの?だったらうち来る?」という感じ。
友人も同じパターン。
スカウトしてきた会社は、誰も知ってる大手企業。
給料は少し上がるらしいが、ネックは通勤時間が2時間かかること。
もしくは購入した家から離れての単身。
転職がプラスばかりなら、みんな転職している。
マイナスもあるから悩む。
友人と「では、どういう条件であれば今の会社に残るのか?」という話になった。
会社に残る「金銭的な条件」
友人の退職したい一番の動機は「将来への不安」。
「主力がいなくなって、会社の存続は大丈夫なのか?」という不安。
だからこんな提案をしてみた。
「お前さ、会社が金を出すって言ったら残るの?」と。
「人材流出の深刻さ」と「過去5年ぐらいは黒字経営」と聞いていたから、会社はある程度なら金を出すと考えた。
「え?金?金かぁ・・・」
「そうだよ金。出す可能性あると思うぞ」
「えー、そうだなぁ・・・えーと2億円ぐらい出すなら」
この言葉を聞いて爆笑しながら「お前なめてんのか!」と伝えた。
「だって、金もらった一生辞められないだろ?」
「まぁ・・・倒産か体がぶっ壊れない限りは一生だろうな」
「じゃ、2億だよ」と。
私の友人はぶっとんでいる。
あり得ないでしょ?
私の友人はそこら辺にいる普通の奴。
家が裕福で金銭感覚がおかしいわけではなく、どちらかと言えば貧乏の家に育った。
若いときに結婚し家を建て替え、子供が3人できちゃったので、こずかいは2万円。
その友人からまさかの「2億円」
しかしこれは友人の冗談(バカ話)。
「会社がこんな要求を飲むわけがない」ということを理解している。
しかし・・・。
退職を話す緊張感のある会議室
退職の相談を受けた数日後、友人は退職を話を会社に打ち上げた。
告げる相手は社長。
この社長はいわゆる二代目であり創立者の息子である。
実は退職者が増えている原因を作ったのも、この二代目社長。
簡単に言うと「気分屋」「異常なネチネチ派」という性格難なのである。
その社長に退職を伝える。
2人きりの会議室。
お決まりの文句である「で、話ってなに?」から会話がスタートする。
友人は「退職したい」とド直球を投げた。
社長「理由は?」
友人「ここ1年ぐらい体調が優れず嫁に心配され、会社を辞めて欲しいと言われました」
友人はウソを付いた。
退職理由を正直に言わないのは正解である。
まさか「退職者が多すぎて会社潰れるよ」と社長に言えるはずもない。
しかし一度ウソを付くと更にウソを重ねドツボにハマる。
だから退職理由は多くを語らず、はっきりと意思を伝えるのが、もっとも揉めない方法である。
社長は案の定「体調が心配なら休職してもいいぞ」と。
負けじと友人は「少し休めば良くなると思えません。それにちょっと休んでもまた同じようになり、それこそ何年も働けなくなったら、家族を養っていけません」。
ちなみに友人は健康体。
すると社長が「家族を養うか・・・お金の問題か?」
「まぁ、たしかにお金があれば、家族に安心させることは出来ますが・・・」
「いくら?」
「いえ、いくらと聞かれても・・・」
「いいから、おおよそ。いくらぐらいだと思っている?」。
「えーと・・・2億円」
ここで数日前に私と話た冗談が頭をよぎり、思わず「2億円」言ってしまう友人。
普通は「バカかお前は」と言われる。
しかし・・・
「分かった。出すよ」とまさかの了承。
そしてまさかの即決。
社長が引き止めで2億出すと言った背景
社長曰く「会社の中心になる人を育てるのには、とてもお金がかかる」と言っていたらしい。
これは正しい意見だと思う。
会社というのは人材育成で、見えないお金がたくさん掛かっている。
会社を引っ張っていく人材が退職されたら大損も大損。
けどね・・・。
働く人の立場からすると「だったら退職を言い出す前に給料として出せよ」である。
社長の心理状態はヤバいらしい。
面談中も小さな声で「やばいよ、どうしよ」と独り言をつぶやくほど。
つまりマトモに判断ができない状態。
日本は20年の不況で、忘れてしまっているが、会社にとって人材とは宝である。
役員だけで金を稼げるはずもない。
第一線で働く中間管理職と若手が、お金になる実務をしている。
その宝にブラック労働やパワハラをしてきた20年。
その結果「会社が困っても同情はしない」という人が増えるのも当然である。
あなたならどうする?退職引き止めに2億円
皆さんは「2億円出すから、一生その会社ね」って言われたらどうしますか?
残業は現在でも100時間前後。
課長だから残業代はなし。
社長からすると「2億円出したんだよ。もっと成果だせよ」と言わることは想定内。
この2億円が一括か分割か、どういう契約が盛り込まれるか分からない。
けど確実なのは、税金を計算する経理にはバレる。
小さな会社では簡単に噂が回るよね。
守秘義務なんて、小さなコミュニティーの中ではあってないようなもの。
そもそも友人の場合は、自ら同僚や後輩に言いふらしたらしい。
「なんで言いふらしたのか?」と聞いたら
「だって、あり得ないと思うだろ?だから面接の前に『オレ2億ってふっかけてみようかな』って冗談で言った」と。
確かに2億を了承されるとは思わないよな・・・。
もし2億円もらった人が、隣に座っていることを知って、あなたは真面目に働く気になりますか?
きっと「オレにもよこせ」ってなるよね。
もし友人より経験や知識が少なくても「1億、いや、5000万円でいいから出せ」ってなるよね。
それさえ出さないなら、やる気なんて出ないよ。
もし特別待遇を受けたら、批判や嫉妬も含め、今まで通りに人間関係は築けない。
その状態で仕事を上手く回す事はできるだろうか?
それこそ退職者が更に増えないだろうか?
社長はそんな周りの従業員の気持ちを想像する力も欠如している。
だから即決で2億円を了承した。
新しい人を育てるのも会社の信用を取り戻すのも何年も掛かる。
考えてみると色んな不安要素やリスクがある。
私は友人にそれらのリスクを伝えようとしたら、すでに理解していた。
だから友人は「2億出したから会社に残るかって?残るわけねーだろ!」と言ってきた。
だから私は「お前が勝手に2億円って言い出して、お前が会社に言ったんだろうが!」と言い返した(笑)
最後に友人は「死ぬ気で働いて、運も味方すれば立て直すことはできる。けど仕事で死ぬ気はない」と言っていた。
引き止め料を払う会社が今後は増えるのか?
2億円の話はそうそうある話ではないが、人材を引き止めるために、給料を上げる会社は確実に増えた。
新卒で入社した人より、同世代で中途採用で入った未経験者の方が給料が高くなっている会社もある。
人材というは会社にとっては資源。
資源が枯渇すれば、高騰するのは自然なこと。
では、こういった人手不足による給料が上がる話は、いつまで続くのか?
未来の予測は難しいが、おそらく2018年~2019年がピークになり、徐々に無くなっていくと思う。
そう思わせる要因はたくさんある。
例えば2019年の消費税増税。
消費税を価格に転嫁できない会社は、利益が減ってしまう。
価格に転嫁できる会社も消費者が節約すると仕事が減る。
そこに加えて2020年7月には、消費税のキャッシュバックが終わり事実上の増税。
加えてオリンピック需要に向けて雇用された人がいる。
このオリンピックのため雇用された人の何割が継続雇用になるのだろう。
また70歳定年という話もあり、実現すれば人手は増える。
こういった人手不足を拒む要因はある。
そういった状況を考えると、しばらくは給料の上昇は望めない。
給料が上がらない程度で済めば良いが、最悪は景気の悪化で雇用さえも不安定に。
・・・。
・・・。
ごめん。最後に暗い話になってしまった。
プラス思考で書こうと思っても、良くない現実の方が多くて難しかった・・・。
だからいつ解雇されても良いように、いつでも転職できるように、準備はしっかり整えよう。
私も。嫌だけど仕事頑張ろうっと・・・。