皆さんは上司に「生産性を上げろ」とか言われていませんか?
「生産性」という言葉が、ここ10年ぐらいで盛んに使われるようになりました。
テレビでも「日本は生産性が低い。もう先進国とは言えない」と言っていた。
しかしこれって本当でしょうか?
「生産性を上げること」=「良いこと」と思っていませんか?
私は皆さんに伝えたい。
「今の日本で労働生産性を上げてはいけない」と。
それは誰のためでもなく皆さんのために。
生産性を上げる2つの方法
労働生産性とは何か?
式にすると下記のようになります。
この労働生産性を上げるためには・・・
- 分子である「付加価値(売上-原価)」を上げる
- 分母である労働時間を下げる
この2パターン。
では「売上-原価」を上げる方法とは?
「付加価値(売上-原価)」を上げるためには?
売上とは会社に入ってきた全てのお金です。
原価とは物を作るために買ってきた材料などの費用。
パン屋さんに例えるとパン粉や砂糖が原価にあたります。
図に表すと下記のようになります。
ここから付加価値を上げるためには「原価を下げる」か「売上を上げる」です。
「付加価値のみ上げる」ということも考えられますが、稀なケースです。
付加価値の高い商品を作ろうとすると、大抵は原価も上がってしまうからです。
原価を下げるため下請けに値引き交渉すると付加価値はあがります。
しかし日本全体の付加価値は上がりません。
原価を下げると下請けの付加価値が下がるからです。
下請けの原価を下げると孫請の付加価値が下がります。
最終的には、原材料費になりますが、原材料自体はゼロ円です。
例えば魚を取るときに、海にお金を払ったりはしません。
漁師は人件費になり、船は減価償却費になり、最終的には原価も付加価値になります。
原油の採掘は海外の付加価値になり、国内に輸入になります。
海外からの原価を下げられれば、国内の付加価値は上がりますが、それが出来ない場合は「売上を上げるしかない」ということです。
日本の売上を上げる方法は?
日本の売上を上げる方法は、どんなことが考えられるのでしょうか?
例えば私がトヨタ自動車の販売だとします。
日産の車を購入しようと思っていた人にアピールしてトヨタの車を販売した場合、トヨタの売上は上がります。
しかし日産の売上は下がるので、日本全体の売上は変わりません。
では、今まで車が必要ではなかった人に車を売ったら?
それでも日本の売上が上がったとは限りません。
私なら車を買った分、他の支出を下げて節約しようとします。
例えば洋服を買うのを控えたり、食費を下げたり、飲みに行く回数を減らしたり。
車で支出した分、他で節約したら日本の売上は変わりません。
つまり「日本の売上を上げるためには、皆さんが今まで以上にお金を支出しないと変わらない」ということです。
今まで以上にお金の支出を増やすには・・・
- 給料を上げる
- 貯金を使う
- 所得や消費に関わる税を下げる
これぐらいしかないです。
しかし日本はことごとく失敗しています。
日本の世帯収入は2000年と比べても低下しています。
そこに社会保険料が上がっていくので、手取りは更に下がっています。
下記のグラフは2000年を「1」とした場合、「世帯収入」と「社会保障+所得税+住民税」と「手取り」が何倍になったのか?の推移。
そして世帯収入を支えているのは、世帯主ではなく配偶者です。
一般的に世帯主は男性で、配偶者は女性です。
つまり夫の収入は下がっているので、妻が働き支えているということ。
また、今の日本は会社の利益が上がっても給料は上がらない状態です。
近年では純利益は右肩上がりですが、給料は横ばい。
これは日本の労働組合がいかに機能していないかという証拠と言えるでしょう。
下記のグラフはストライキの件数です。
ストライキとは「仕事を放棄して会社に要求を飲ませる」という法律で認められた権利です。
ストライキを匂わせることもしないのであれば、給料は上がるはずもありません。
そこに加えて、法律の規制緩和により非正規が増えています。
非正規と言われる働き方は、全体の38%まで伸びています。
働き方が不安定では「貯蓄を減らしても良い」とは思えないでしょう。
また年金制度は破綻し、支給額が減らされ続けるのは確定です。
老後の不安があれば、ますます「貯金を減らしてまで支出しよう」とは思いません。
更に消費税が2014年と2019年に上がりました。
「できるだけ消費を抑えよう」と考える人が増えるでしょう。
なので消費は徐々に下がっています。
私たちの消費は会社の売上です。
国内向けに商売している会社の売上は下がります。
頼みの綱は輸出企業ですが、それも海外進出が進めば、日本の売上は落ちていきます。
労働時間を減らすとどうなる?
労働生産性は「売上を上げる」他に「労働時間を減らす」ことで上げることができます。
では労働時間を減らすとどうなるでしょうか?
人件費が下がって、会社の利益が上がります。
労働時間を減らすということは「所得が下がる」もしくは「失業者が増える」ということです。
どちらにしても平均所得は下がるので売上も下がります。
このように非常に良くない悪循環を作る。
だから今の日本のように「売上が上がらない」「労働組合が機能しない」現状では「労働時間を短縮して生産性は上げてはいけない」となるわけです。
日本の生産性を上げるには、まずは売上を伸ばしてからです。
「日本の労働生産性は低い」と伝えるグループ
ネットやテレビでは「日本の生産性は低い」と煽ったような内容が多い。
情報のどころを探してみると「公益財団法人 日本生産本部」という団体が見つかる。
よく使われる日本生産本部が作ったグラフがこちら。
このグラフを見ると日本は先進7ヶ国で最下位になっています。
このデータでは「労働生産性」=「GDP/労働時間」として計算しています。
「GDP=付加価値」として計算しているということです。
これはあまりに雑な計算です。
何が雑か?
このGDPは「政府支出」が含まれています。
行政サービスには「利益」というものがありません。
民間は人件費を上げるだけでは、GDPは変わりません。
しかし政府は利益がないので、公務員の給料を上げるだけGDPが上がります。
公務員の給料が上がっただけで、皆さんの労働生産性がどう変わったのでしょうか?
この計算をしている日本生産本部という団体は、大企業の経営陣の人達が集まって活動しています。
そして天下り団体として、多くの批判を受けたところでもあります。
経営の方々なら日本の売上が伸びないのは知っています。
なぜ忙しい大企業の経営陣の人たちが、わざわざ集まってこんな事をやっているのか?
参考までに会社の「純利益」と「株の配当」の推移がこちらです。
会社の純利益と株の配当金は、ほぼ同じように動きます。
労働時間が減ることで利益が上がり、本当に喜ぶのは誰でしょうか?
「なぜ生産性という言葉がよく使われるようになったか?」分かりますよね?
そもそも労働生産性を他国と比較する意味って?
そもそもの話をしてしまうと、他国と労働生産性を比べることに意味があるのでしょうか?
確かに「効率を上げると労働生産性は上がる」という側面はある。
しかし労働生産性が上がる要因はこれだけではありません。
ライバル企業が少ない国は、価格競争があまり起こらず、高い値段で売れるので労働生産性は高くなります。
そして産業によっても労働生産性は大きく違います。
例えば農業は豊作のときは値段が下がり、不作のときは売れる数が減るので、労働生産性は低くなってしまう。
逆に保険や金融商品などは原価は、あってないようなものなので、労働生産性は高くなる。
つまり生産性が高い業種に偏っている国は、生産性が非常に高くなります。
このように状況がまったく違う国を、単純に横並びにして比較しているということです。
結局どうするサラリーマンの働き方
サラリーマンの中でも生産性に関しては分断がある。
それは「ムダことが嫌いで早く帰りたい」という生産性を上げたい人。
対して「なんとか残業代を稼ぎたい」という生産性を下げたい人。
これは「時間の価値観」と「お金の価値観」の差で違いがでる。
私はずっと「帰りたい派」だった。
「結論がでない会議を主催する上司」や「仕事の優先順位を考えない後輩」を見ると「イラっ」としていた。
しかし生産性という視点で見ると「残業代を稼ぎたい派」が正しい。
労働組合が機能しない日本では、むしろ団結して残業代をこっそり稼ぎ、消費しないと生産性は上がらない。
その団結を防ぐために「管理職は残業がでない」というルールがある。
管理職の人は「私は残業代がでないのに残業している」と不満がある。
加えて会社からは「生産性を考えて管理しろ」と言われる。
これだけで分断は可能です。
うまく出来ていますね。
それを知った上で「さて、どうするか?」を考えなくてはいけません。
少なくても「会社から言われたからただ従う」だけではいけないと思いませんか?
私たちサラリーマンの知恵の出しどころです。