今回は損害保険の営業という仕事の紹介。
色んな仕事を見渡すと「不思議だな」と思う仕事がある。
そのひとつが損害保険会社の営業。
損害保険とは自動車保険や火災保険を扱う会社。
何が不思議か?
それは営業ではないのに営業職があること。
これをよく分からず転職する人は戸惑ってしまう。
入社してから「おれは営業やりたかったのに」と後悔する人までいる。
転職って実際に入社して仕事をやってみるまで分からないことが多い。
だからこそ、転職する前にその仕事の「良いところ、悪いところ」を知ることが大切。
では「損害保険の営業ってどんな仕事?」ってことを紹介する。
損害保険会社の基礎知識。ダイレクト型と代理店型の違い
まず初めに知ってほしいことが、損害保険の売り方は2つある。
それは「ダイレクト型」と「代理店型」と呼ばれる。
ダイレクト型はネットで見かける「簡単!今すぐ見積もり!」なんて広告がこの手の会社。
売り文句として「ダイレクト型は代理店がいないから中間マージンがなく安い」と言われているが、大きな広告費がかかっている。
もうひとつは代理店型。
営業してくれる代理店と契約を結び、売り上げに応じて報酬を支払う。
ここで注目してほしいのは、代理店型もダイレクト型も損害保険会社自体は営業業務をしていないということ。
ダイレクト型は広告を使って待つ手法。
加入者はネット上で調べて、もし分からない事を問い合わせて検討する。
これって営業というより販売の仕事に近い。
そして代理店型の場合は、実際に営業するのは代理店である。
けど損害保険の求人には営業職があり、実際に営業がいる。
これって不思議だと思いませんか?
(余談)ダイレクト型は売れてない
ちょっと話がそれてしまうが、実はダイレクト型保険というのは売れていない。
テレビCMで耳にする機会が多く、売り上げを伸ばしているように感じてしまうが、ダイレクト型のシェアは10%以下。
残りの90%以上は代理店型と呼ばれる保険会社。
売れていない理由は、保険は難しく理解ができないため人脈に頼った営業が主流であること。
だから「親と同じ保険会社にした」とか「知っている自動車屋さんに勧められた」という理由で保険会社を選んでいることが多い。
そこに加えてダイレクト型の方が対応は良くない。
これはダイレクト型保険会社で働いている社員の質が悪いのではなく仕組みの問題。
ダイレクト型は全国に広告を流してお客を集める手法。
対象になるお客は日本に住む全国の人であり、あなたはその中のひとりでしかない。
それに対して代理店型は地域に密着している。
あなたと上手く付き合えば、家族や友人を紹介してもらえるかもしれない存在。
つまり代理店型の方が、お客を獲得する手法として、お客と親密にならないといけない。
代理店型の損保会社の営業は何をしている?
代理店型の場合、営業するのは代理店で働く人。
では損害保険で働く営業は何をしているのか?
それは、かっこよく言えばコンサルタント業をしている。
コンサルとは日本語にすると「相談・助言役」という意味。
「なるほど。代理店から相談を受けて助言しているのか」と思うでしょ?
けど実際は代理店のケツを叩く、もしくはお願い営業している。
具体的には
「今月もっと契約をお願いしますよー」とか
「昨年の5月は10件取れたので、今年は12件がノルマです」とか。
なぜこのような状態になっているのか?
それは損害保険の社員が営業の経験が少ないから、教えたくても教えられないというのが本当のところ。
当たり前の話だが、営業なんて毎日してやっても上手くいかない人もいる中で、損害保険に新卒で入り、多くの経験を積んでいない人が「売り方」を教えられるはずがない。
大口企業には損害保険の営業も参加するが
損害保険の営業も実際にお客さんのところに行くことがある。
それは大口のお客の場合。
例えば乗用車やトラックを複数保有している会社など。
特にトラックは車体価格が高く、事故の損害が大きいから保険料も高い。
保険業界から見ると単価が高い上客であり、他社と取り合いになる。
こういう大口のお客に社員が登場する理由は「プレゼン能力や営業能力を買われて」というよりも「値引き」のため。
社員が会社に理由を付けて申請することで、大幅な値引きが可能になる。
でもね。
ただ冷静に考えると「保険って値引きしていいの?」という疑問が残る。
保険の料金というのは元々あってないようなもので「保険料=損害金+利益」で決まる。
損害金が大きくなれば、保険料を上げることになる。
この損害金を多くの人が薄く負担することで成り立つ。
それを大口だからという理由で安くすると、他の人がその分を負担している
保険には公平性が求められるから、法律でも保険の値引きは禁止されている。
(保険業法300条の5項)
それを手を変え品を変え「事故の減らす施策を作った」と値引きの根拠を作るのが、営業の仕事になっている。
損害保険の営業はなぜ変なのか?
損害保険の営業がなぜ変なのか?
それは損害保険の歴史を見れば分かる。
自動車保険が自由競争になったのは2000年ごろで、それまでは全ての会社が同じ保険料だった。
だから他社と競争して営業した歴史は、20年ぐらいしかない。
つまり現在いる会社のトップ層は、営業がよく分からない中年まで過ごし出世した世代。
その分からない人たちが、部下に指示している。
それでも商売が成り立つのは、日本では「保険に入らないといけない」という文化と「実際に営業しているのは代理店である」という仕組みのおかげ。
損害保険の営業にやりがいはないのか?
ここまで損害保険の営業を紹介したが、「あまり面白くなさそう」と思ったかもしれない。
では「やりがいがない仕事か?」というとそんなこともない。
損害保険の営業とは、一般の営業とは異なり「代理店のモチベーター職」。
モチベーターとは他人にやる気を出させる人のこと。
代理店も高齢化が進み、老後の小遣い稼ぎのような代理店をやる気にさせるすごい人もいる。
これって簡単な仕事じゃない。
会社で上司と呼ばれる人はたくさんいても、モチベーターになれている人がどれぐらいいるだろうか?
人の心理を読んで動かすという面白みがある。
さらにすごい営業もいて代理店に頼らず、自分で人脈を作り新規顧客を獲得している人もいる。
これは会社的には代理店制度を作った意味がなくなるから、勧められた方法ではない。
けど営業という仕事は、誰かに言われた通りにやっていても伸びない。
損害保険会社はルールがガチガチなだけに、自分で考え自分で行動する人にとっては、営業成績でごぼう抜きにできる。
代理店制度であっても個人のやり方次第では、営業能力を発揮できるという面白みは残っている。